留学シリーズ 第七話 「日本人として」 7/09/07


アメリカに行った大きな目的、それは自分をリセットし、自分は一体何者なのかを知ることだった。私の社会人生活は、やりがいは感じていたものの日々増していく責任の中、これでいいのか?という疑問が常に付きまとっていた。朝9時から早くても夜9時まで、週6日働き、わずかな週末の時間は疲労感と翌日からまた始まる仕事に対する緊張感に支配された。それでも音楽をやりたいという情熱だけは持ちつづけた。人生のリセット。自分で選ぶ人生。見知らぬ土地で新たに築く人間関係。その中での自分の納まる役割とは?人種も言葉も違う海外生活。たまたまBerkleeに留学していたという友人を紹介され、下見をするために単身Bostonに行ってみた。学生という身分であればVISA発給に問題はなさそうだ。人生をリセットできるチャンスなんて滅多にない。今しかない!考えてみても始まらない!というのが留学を思い立ったまでの経緯である。

興味があったのは、自分をとりまく小社会(友人関係など)の中で、今まで収まっていた自分の役割は適当であったかということであった。例えばリーダー、ナンバー2、もしくは一匹狼タイプなど、それぞれの役割には適正があると思うが、それは意識しなくても自然と収まってしまうものなのか?それは人種を超えて、またすべて白紙の人間関係の中ではどうなるか?私の結果は、人に恵まれ信頼関係も生まれ、日本でのそれと同様になった。今自分が身を置く小社会での自分の状態は無意識のうちに自らが選び、自らが創り出しているということだろう。もし仕事がうまくいかない時や人間関係に苦しむことがあった時には教訓として生かしていきたい。

アメリカという国は元々アメリカン・インディアンが住んでいたが現在はあらゆる国々からの移民によって構成されている多民族国家である。その多くはソサエティを持ち、アメリカ人でありながら自分達の祖国への誇りを大切にしている。アメリカには世界中のあらゆる文化が詰まっていて祖国と同じ暮らしができるように思うが、本当に郷愁を満たしてくれるものは実はそこには存在しないように感じる。街を歩けばクオリティは他国の製品の追従を許さない「Made in Japan」の電化製品や自動車。そんな中で生まれる日本人としての誇り。そして日本への郷愁と誇りが私を「日本人である」と教えてくれる。日本は前述のハイテクを始め、食文化、アニメなど世界に誇れるものが多くある数少ない国であることに気が付く。それは日本の豊かな風土により長い年月を経て育まれた日本人の感性が創り出すものである。日本人としての感性を大切にした音楽創り。おぼろげに帰国後の私の大きな目標が見えてきた。

 

つづく

 

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